医者になってからの勉強ってそんなに簡単じゃないんだよね…『高血圧の話』no.8『Clinical inertia』
『高血圧』の最後として『Clinical inertia』の話です。
JSH2019には厳格な血圧コントロールが重要であるにも関わらず、血圧コントロールが不十分な場合、Clinical inertiaが関連することがあると言ってます。
…というか、他の糖尿病やCKD他、どの分野でも言われていることです。
「Inertia」は状態が変化しない慣性の意味です。
『Clinical inertia』とは
治療を開始すべきであるのに開始しない状態
治療強化を行うべきなのに行わない状態
のことを意味します。
医者側の「まぁ、いっか」や患者さん側の「薬を増やしたくないんです」みたいなのが原因となります。変化を嫌う人が多いのと、嫌われたくないから『現状維持』を選択してしまうことがあります。
少し話が逸れてしまいますが、専攻医の時に厳しかった上級医の先生は『当時はうぜーなー』と思っていましたが、現在では『嫌われ役になっても指導してくれた先生』として、貴重な存在だったと思っています。指導されていた当時の内容が正しかったなぁと思えることが多くなってきた今の自分だからやっと感じることができています。
これは厳しかった上級医の先生の理解と当時の私の理解が共通しておらず、共通のゴールを設定できなかった部分があり、厳しかった上級医の先生の理解を今の自分だとある程度把握できるのでありがたさがわかったのだと思います。
こんな感じで『医者側の理解』と『患者さんの理解』が共通していないと納得して治療を受けることができないので、『治療効果』も乏しいことが多くなってしまいます。そのため、『医者側の理解』と『患者さんの理解』が共通している共通の理解基盤が形成されていることを前提として、それでも治療をしたいと患者さんが考えているのかどうかやどの程度の治療を行うのかのゴールを作ることが重要です。
『医者側の正義』を押し付ける診療はダメなのはその通りです。でも、一方で『患者さんの間違った認識』に基づく主張や『食べるものが何もなくなっちゃうと言われると可哀想』というような感情的な部分で現状維持にしてしまうのも問題です。
そんな医者と患者さんの落とし所を探っていくのが患者中心の医療の実践であり、患者さんのかきかえ(解釈、期待、感情、影響)などから共通の理解基盤を探り、共通のゴールを作ることが重要と教えています。ここら辺は家庭医研修で何回も話題になる部分です。
『嫌われ役』になることは良い役回りではないし、相手の都合が良い存在の方が『嫌われること』が少なくなるのは事実だと思いますが、『相手のことを考えて厳しいことを言う存在』が多少なければ世の中のバランスがとれないんだと思います。かかりつけ医はその少しお節介な役割をするのが仕事なのだと思っているので、時には厳しく、時には許容しつつ健康で長生きをしてもらうようにしています。
…という話までを大体1〜2日で説明をして専攻医の先生には自宅で復習してもらって時々理解度をチェックしています。
こんな内容を数十項目やりとりをしている中で、一部分の理解が足りない部分などをブログで取り上げているのであんまり勉強していないんだろうーなーと誤解されそうですが、こんなレクチャーのやりとりにプラスして日常業務と当日の経験症例の振り返りもしているので、結構膨大な内容を毎日覚えたり、調べたりして研修をしています。
なので、こんなに膨大な量の勉強をするので(…というかそれでもカバーしきれないくらい医学は広い分野があるので毎月自分自身も勉強に追われています)、多少忘れた分野があっても何回も復習することでできるようになればいいじゃないかという見守り&しつこいくらいのフォローアップ&大量のお菓子を与える研修スタイルをとっています。今できないことを攻めてもどうしようもないので、いつかできるようになれば良いと伝え続けています。
少し宣伝ですが、こんな厳しいクリニックで研修しようと決意した専攻医の先生がいるのであれば、コメント欄かツイッターで連絡してください!
もしくは医学生、初期研修医、専攻医に勉強させたいと考えている研修ディレクターの方や一緒に働きたい先生がいたら、是非とも連絡ください!!専攻医へのレクチャーだけで終わらない実践が待ってます。
話がまたまた逸れましたが、そのくらい専攻医の先生は忙しいのでなるべく復習が楽になるように動画にしてあげようと頑張ってます。あと、院内通信も動画にしているので、患者さん向けでもあります。