family-doctor-shin’s blog

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医者になってからの勉強ってそんなに簡単じゃないんだよね…『高血圧の話』no.1『ガイドラインと歴史について』

なるべくとっかかりやすい様に優秀な先生でも失敗した部分を書いていましたが、今までのブログの内容だと本当に優秀な専攻医の先生があんまり勉強していないんじゃないかと思われてしまうのは私の拙い文章の責任だと思います。

そのため、実際の専攻医の先生たちが勉強する内容の一部分をしばらく公開しようかと思います。研修修了生はこのほとんどの分野を3〜6ヶ月(最短で1ヶ月で修了した先生もいます)できちんと理解して使える状態で修了していくので、本当に大変なんです(毎日の業務にプラスして勉強をさせられるので、大変だと思います)。

 

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忙しい業務の間に勉強をする…

『高血圧』を題材にしますが、

他にも自分のクリニックで準備しているレクチャースライドのタイトルだけ述べると

脂質異常症

腎疾患とAKI・CKD

心不全の治療・管理について

気管支喘息COPD

糖尿病

認知症全般

メンタルヘルスケア

尿トラブル

乳児健診のやり方

ワクチンスケジュール

在宅酸素療法について

睡眠時無呼吸症候群

甲状腺機能亢進症・低下症

整形外科疾患の診察及び治療

妊娠中の薬剤調整

無月経とその対応

更年期障害

緊急避妊・月経移動

アトピー性皮膚炎

家庭医療総論(患者中心の医療、ACCCAなど)

ポートフォリオの作成方法

困難事例の対応

ACSC

行動変容

悪いニュースの伝え方

高齢者総合評価

エビデンスについて

介護保険制度および主治医意見書の書き方

財務諸表の見方

医療経営について

オピオイドの使い方

嚥下障害の評価・リハビリ方法

安楽死尊厳死

ステロイド外用剤と他の外用剤

について、『高血圧』同じ分量〜半分くらいの勉強量を専攻医だと全領域勉強してもらうことになります。レクチャー内容はこれ以外にも当日担当したり見学した症例、例えば性行為感染症のスクリーニングや治療だったり、FIMやSIASの評価方法だったり、腹部や甲状腺の超音波スクリーニング方法だったり、関節注射だったりも追加で勉強させられることになります。結構スパルタ教育です。レクチャーも細切れで行わざるを得ず、後からスライドとワードファイルでフォローしてなんとか研修をしています。

 

 

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前置きなげーよ、うるせーよ!とおっしゃらずに…

…と前置きはおいておいて、実際のレクチャーはこんな感じで進みます。

赤字は追加解説です。

 

なぜ高血圧治療が重要なのか?

厚生労働省平成30年の人口動態統計を見ると死亡原因は悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患と続いていく。1)より(こんな感じで根拠まで押さえてもらいます

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厚生労働省の統計

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厚生労働省の統計2

しかしながら、リスク因子に注目して本当の原因を考えてみると、喫煙の次に高血圧がそれぞれの疾患のリスク因子となっている。2)より

 

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本当の死亡原因は?

厚生労働省が3年ごとに患者調査を実施していて、日本には993万7千人(平成29年)、1,010万8千人(平成26年)、906万7千人(平成23年)の高血圧患者がいる。

今までの研究でわかっていることは大きく3つ心血管系のリスク、脳卒中のリスク、腎疾患のリスクにそれぞれなる。高血圧はそれ自体は原則として症状がなく、怖いのはその合併症であることを認識する。

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高血圧の合併症

 

国民の収縮期血圧平均値4mmHg低下した場合の推定として、脳卒中死亡数が年間約1万人減少(男性8.9%低下、女性5.8%低下)、冠動脈疾患死亡数が年間約5千人減少(男性5.4%低下、女性7.2%低下)すると推計3)されている(これをポピュレーションアプローチと呼んで公衆衛生で重要な手法になります)。また降圧剤で治療をすることで心筋梗塞を20〜25%低下、脳卒中を35〜40%低下、心不全を50%以上低下4)する(これをハイリスクアプローチと呼びます)。

 

ガイドラインについて

 少し勉強をするとたくさんガイドラインがあり日本のガイドライン(JSH2019)があてにならないようなことを言う先生がいるので不安になってしまうこともあるでしょう。特に医学生や初期研修医の間は有名な先生が言うとその影響を強く受けて日本のガイドラインってあてにならないんだと思ってしまうことが多いでしょう。そんなことはないのだが、各国のガイドラインの変遷や流れを把握しておいて参考にすることは有用で、余裕があれば把握して損はありません。しかしながら日本でプラクティスをしている限り、日本のガイドラインを無視することは得策ではないと思います。ただし、日本のガイドラインJSH2019は複雑すぎて覚えるのが難しいので、他のガイドラインを借用して覚えやすい部分を覚えてかいつまんで使用してもそれほど大きな間違いがないように思います。(全部を覚えようとする労力がもったいないので、可能な範囲で覚えてねというように伝えています。

左からJSH(日本高血圧学会)2019、ESH(欧州高血圧学会/ESC(欧州心臓病学会)2018、JNC(米国合同委員会)7(2003年)、ACC(米国心臓病学会/AHA(米国心臓協会)2017、ASH(米国高血圧学会)/ISH(国際高血圧学会)2017、NICE(イギリス国立医療技術評価機構)2019、JNC8になります。

 

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ガイドライン一覧

 米国について確認すると、NHLBI(国立肺血液研究所)が当初JNC(Joint National Committee)を構成して高血圧の治療が必要なのかどうかやどのように治療を行うかを検討されていました。

 1960年代:そもそも高血圧を治療するかどうかが問題で、βブロッカーが発見されてJNC1が誕生!!

 JNC1(1977年):治療対象は拡張期血圧が105mmHgを超える場合のみ収縮期血圧に基づく病気分類なし。

 JNC2(1980年)とJNC3(1984年):血圧目標や分類があいまい

 JNC4(1988年)とJNC5(1993年):血圧の分類は上記の通り

 JNC6(1997年):降圧目標がSBP140mmHgかつDBP90mmHg。1g/日以上尿蛋白ある腎機能障害125/75mmHg、それ未満の尿蛋白ある腎機能障害とDMは130/85mmHg、ACE-Iが降圧剤として追加。他人種別の推奨も。リスク評価や治療がとっても複雑

 JNC7(2003年):prehypertensionなど血圧の分類を少し簡易に。ヒドロクロロチアジドを第一選択

 2013年6月にNHLBIがガイドラインの取りまとめをACC/AHAへ委託

残った委員会でJNC8(2014年):1966〜2009年までのRCTによる研究で最低2,000人以上のサンプルかつ他施設研究に限っている。エビデンスがある推奨を9つに絞った・・・が、非公式とされた。

 そしてJNC7の後継としてACC/AHA2017が11団体の合同発表が行われたのが最終的なガイドラインです。JNC7は日本のような細かいガイドラインでしたが、細か過ぎてあまり使われず、逆にJNC8はエビデンスがあることに限定したため、細かいところの記載はJNC7に依存している状態だったことと内部争い(みたいですがよくわかりません)のため、JNC8が非公式になってACC/AHA2017になったようです。でも、JNC8の内容は非公式とはいえ、2014年までの高血圧の治療効果があるとされるエビデンスが蓄積された対象者や選択薬剤が記載されているため、治療を行うべき最低限の内容として把握しておくことは重要です。

 JNC8の内容で重要なのは以下の部分です。

・60歳以上 SBP≧150orDBP≧90で降圧開始 150/90未満を目標 GradeA

・60歳未満 DBP≧90で降圧開始 DBP90未満を目標 30〜59歳についてはGradeA

・非黒人では第一選択薬 サイアザイド系、Ca拮抗薬、ACE-I、ARB GradeB

・黒人では第一選択薬 サイアザイド系かCa拮抗薬 GradeB(DMはGradeC)

・18歳以上のCKD合併は第一選択にACE-IかARB GradeB

 その他ESH(欧州高血圧学会/ESC(欧州心臓病学会)2018、ASH(米国高血圧学会)/ISH(国際高血圧学会)2017、NICE(イギリス国立医療技術評価機構)2019、があります。日本のガイドラインはJSH2019が最新です。

 

 

…と、まだ高血圧の話の中身に入る序盤でこんなに理解してもらいたい部分があり…、一度に伝えると大変だと思いますので、明日以降に続きの話をします。

 

 

 

ちなみに…

ここまでの話が難しすぎるじゃねーか!とお思いのあなた!

やる気があるのであれば下の動画がわかりやすいらしいですよw(自作自演)!!

youtu.be

 

参考文献

1) 厚生労働省"平成30年人口動態統計月報年計(概数)の概況"(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai18/index.html)より(2020.5.1参照)

2) Ikeda, Lancet. 2011 Sep 17;378(9796):1094-105. doi: 10.1016/S0140-6736(11)61055-6. Epub 2011 Aug 30.より

3) 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会・次期国民健 康づくり運動プラン策 定専門委員会. 健康日本 21(第 2 次)・推進に関する参考資料: 厚生労働省; 2012