薬剤師さんに教わった医者が苦手なお薬の話
医学部を卒業するまでに全く習わないこととして
- 処方箋の書き方
- 配合変化
- 投与方法
- 薬の味
などがあります。
今回はそんなお薬にまつわるお話です。ちょっと難しいことにも言及しますが、解説がない部分は知らなくてもいいんじゃないかなという内容です。
処方箋の書き方
処方箋って内服薬と注射剤と外用剤で処方箋の書き方が異なります。
内服薬
◯◯◯ 3錠 分3(3×とも書き、3回に分けましょうという意味) 毎食後 7日間
注射剤
◯◯◯ 1V ×3(3回やりましょうと言う意味で3×とは異なるので注意!) 毎食後 7日間
外用剤
◯◯◯ 50g(全量を記載) 1日2回 (ここに何日分かは記載しない)
という書き方がありますが(医療関係者以外は覚える必要はありません)、内服と注射の違いは医者になって慣れてくると滅多に間違えませんが、外用剤の処方はよく間違える先生がいます。
ダメな間違い
外用剤
間違い ◯◯◯ 1回2g 1日2回 14日分
⇨ 正しい 56g 1回2g 1日2回が正しい
は初期研修医の先生で多い間違いです。
それより上の立場になっても間違えやすいのはそもそも外用剤なのか内服薬なのかの間違いです。
SPトローチが間違いやすいものの具体例ですが
間違い SPトローチ 3錠 分3 毎食後 5日間
⇨ 正しい 外用 SPトローチ15錠 1回1錠 1日3回 (5日分は記載しない)
のように内服薬と勘違いして処方箋を記載してしまう場合です。通常、病院だけで働いていると気がつかない場合が多い(セット登録と言ってボタン一つで処方が完了することが多いので)が、バイトに出るようになったり、クリニックで働くようになるときちんと記載しないといけなくなります。ここら辺はよく薬剤師さんから疑義紹介されて気がつくことが多いです。
配合変化
これは医者になってからも全く習う機会がないので、薬剤師さんに教えてもらわなければなぜかの理由もわからないことが多いです。
具体的には
間違い フェジン+生食
⇨ 正しい フェジン+5%ブドウ糖液
理由 フェジンはコロイド性鉄剤なので電解質である食塩水で希釈すると沈殿してしまうため(と薬剤師さんが言ってました)
間違い ソリタT1+オメプラール
理由 溶解直後に着色・混濁して含有量が低下してしまうため(と薬剤師さんが言ってました)。そのため、前後フラッシュと呼ばれる生食で前後に薬液が残らないように洗い流します。
間違い ハンプ使用時のヘパリンによるルートロック
⇨ そもそもルートロックにヘパリンを使う意味はないと言われているが、それ以上にハンプとヘパリンを混ぜると直後に混濁する(と薬剤師さんが言ってました)
投与方法
口から飲んだり食べたりできなくなると胃瘻という胃に直接繋がった管からお薬を入れることがありますが、この投与方法としてよく『粉砕』ということをします。『粉砕』は字のごとくお薬を粉々にするのですが、それが可能な薬とそうでない薬があります。CRと記載されている徐放剤は粉砕ができないなどです。
また、特殊なタイプでPPIという胃酸分泌を抑えるお薬のOD錠剤は腸溶性コーティングが施されており、そのコーティングがないとすぐに失活(効果がなくなってしまう)するのでそのままの状態で胃を通過させないといけません。その方法として簡易懸濁法という水などで溶かして(溶けないんですが、混ぜるって言った方がいいでしょうか)、胃瘻から投与するという方法があります。これについては全く知らず、粉砕で処方した時に薬剤師さんがパンフレットを持ってきて丁寧に教えてくれました。
他、投与経路に関しては薬剤師さんになんかいい方法ない?と聞くとこんな投与方法がありますよという提案をしてくれますが、この部分も医者は弱いと思います。
薬の味
意外と大事なのは薬の味や大きさ、飲みやすいかどうかなどの部分です。この部分も医者の立場だと弱いですねー。
セフゾンというお薬がありますが、小児用だとイチゴ味で美味しい!カルボシステインという痰切りも甘くて飲みやすいし、ワイドシリン細粒20%がさらに飲みやすい!…とサンプルを持って薬剤師さんが説明してくれたのをよく覚えています。
医者の立場だとセフゾンは第三世代セフェムの経口薬だからバイオアベイラビリティが30%くらいしかないだろうし、使わないかなぁーとか、嫌気性菌カバーのためにクラバモックスを使おうと思っても、すごく不味くて飲みにくいことを知らなかったりします。バニラアイスに混ぜて飲ませて良いなどは薬剤師さんにパンフレットをもらって知りました。
薬の味などの飲みやすさの話は医者になってからもなかなか聞く機会もなく、それこそ前の職場には熱心な薬剤師さんが多かったので勉強になりました。
他には訪問薬剤指導で
〇〇という薬は××という理由で飲んでませんとか、こんなに余ってますなど、ちゃんと薬を飲んでいるかどうかや飲まない理由などを聞いてきてくれるのがとっても助かっています。
逆に困るのは
飲まなくてもいいですよーとか、こちらの意図とは異なる説明をして誤解されてしまったり、副作用の説明が多すぎて怖くなって飲めなくなった患者さんなどです。
薬の味についてはそもそもその話題を知らないことが多いので、クリニックで研修や見学をしてくれる先生たちに説明すると、だいたい初耳だと興味深く聞いてくれます。
話し始めるとまだまだ浮かんでしまいますが、長くなってきたのでこの辺で。