医者になってからの勉強ってそんなに簡単じゃないんだよね…『高血圧の話』no.4『治療目標について』
『高血圧』は治療した方が良いといっても、どこまで下げたら良いの?という部分は医者によって説明が違います。最近までの研究だとこんなことがわかってますよーというお話です。
治療目標について
JSH2019
75歳以上、蛋白尿陰性CKD、脳血管障害(両側頸動脈狭窄、脳主幹動脈閉塞) ⇨ 140/90mmHg
それ以外 ⇨ 130/80mmHg
75歳以上でDMや蛋白尿陽性CKDがある場合で忍容性があれば130/80mmHg
ACC/AHA2017
一律130/80mmHg
ESC/ESH2018
65歳未満の健常人130/80mmHg
65歳以上 140/80mmHg(DMあると130/80mmHg)
治療目標についてはどこまで血圧を下げて良いのかのトライアルの変遷を反映しています。主なトライアルを追っていくと
- Framingham研究:疫学上SBP120mmHg以上から心血管リスクが増加 ※SBP120mmHgが至適血圧
- ACCORD-BP:2型糖尿病患者4733人、平均2歳、平均SBP139.2mmHgを降圧目標120mmHg未満と140mmHg未満の2群に分けて観察。全死亡率と心血管系死亡有意差なし。脳卒中は有意に低下(0.32%:0.53%/年(非致死的0.30%:0.47%)、95%CI0.39-0.89(0.41-0.96)。有害事象は有意に増加 ※DMのみの話です
※DBP≦80mmHgで死亡率が増加すると言うJカーブ仮説があったが、現在では否定的
- SPRINT:50歳以上の高血圧患者9361人、平均9歳、糖尿病合併、脳卒中既往、蛋白尿陽性、末期腎不全は除外して降圧目標SBP120mmHg未満と140mmHg未満の2群に分けて観察。サイアザイド類似薬を第一選択。有意差が出たため、途中で終了勧告を受けて終了(明らかにSBP120mmHg未満の方がよかったため)。全体のハザード比を減少(0.75、95%CI0.64-0.89、NNT=61)させ、特に心不全発症(0.41%:0.67%/年、95%CI0.45-0.84)と心血管死(0.25%:0.43%/年、95%CI0.38-0.85、NNT=61)が大幅に減少。厳格群で低Na、低K血症が多い。ただし、単純に心不全に利尿剤や ACE-I/ARBが有効だったとも言われている・・・。
という流れで高血圧は厳格管理の方向に向かっています。
いやいや、高齢者の目標はもっと緩めても酔いでしょーという先生がいますが、さらに降圧目標を高齢者に絞ると
- 1960年代:60歳以上は血圧を下げる必要は全くないというのがコンセンサス(今だと信じられません!)
- 1991年のSHEP試験でSBP160mmHg以上を降圧剤で血圧を下げると脳心血管合併症を有意に抑制。ただし、達成血圧レベルがSBP143mmHgだったので高齢者の降圧目標は150mmHgと言われた。ただし80歳以上が除外されていた
- 2008年のHYVET試験は80歳以上の症例のみを対象としてインダパミドを第一選択として高齢者でも脳心血管合併症を予防することを示した。治療達成血圧はSBP144/78mmHgだった。(降圧目標を達成できていなかったのでJNC8は150/90未満という値になったと言われている)
- 2015年のSPRINT試験のサブ解析で高齢者に限って観察しても生命予後改善を認めた。達成血圧は123.4/62.0mmHgなので高齢者でもSBP120-130mmHgが望ましく、DBPに対する配慮も不要と考えられている。
という流れで高齢者の降圧目標も可能であれば(ふらつきやめまいなどがなければ)低めが望ましいです。私はエビデンスに詳しい輩ではないので、細かくいえばサブ解析はエビデンスに乏しいや、内容の批判的吟味が必要というお言葉が聞こえてきそうではありますが、高血圧のトライアル全体の流れをわかりやすくするために上記説明にしているので勘弁してください。JSH2019が述べているように130/80mmHg程度が望ましい程度の理解でよろしいかと思います。
…と治療目標の次は治療の話になりますが、今日はここまでです。